ふくしま夢絵本 BEES

絵本製作ビジョン

「ふくしま夢絵本BEES」~花を実にするミツバチとなって~
(1)トトロの「さんぽ」の故郷から

2017年4月。
福島市の果樹園で、白い梨の花がいっせいに開きはじめました。
この春、避難先から市内に戻った母と子が、花明りの下でお弁当を広げています。
「梨畑から生まれるのはね、梨だけじゃないんだよ」
「え~、何がうまれるの?」
「モズの赤ちゃんも生まれるし、セミもいっぱい飛んでいくの。それからね、猫の 絵本も生まれるよ」
「え~、うっそ~」
いえいえ、ホントのお話です。
20歳のyumiさんが、心をこめて梨畑の猫を描いてくださり、絵本「トントンの ようちえん」が生まれました。
福島市の信夫山もちょっとだけ出てきます。
実は、子ども達に人気の絵本「ぐりとぐら」の作者であり、映画「となりのトトロ」 のテーマ曲も作詞した中川李枝子さんは、終戦直後の6年間を福島市ですごされました。
信夫山や阿武隈川には幼い日の思い出がたくさんあるのだそうです。
その中川さんが通った学校は、福島市立第二小学校と、第二中学校です。
なんと、トントンを描いてくださったyumiさんも同じ学校を卒業されました。
なんという偶然でしょうか。
色とりどりの花々、鳥のさえずり、果汁たっぷりの甘い果実。
今も、ゆったりとした時間が、福島の子ども達の情緒を育んでいます。

(2)「じゅんちゃん」からの手紙

さて、そんな美しい故郷で生まれた子ども達でしたが、震災後は、苦しいことがたく さんありました。
この絵本に登場する「じゅんちゃん」のモデルとなった女の子から、読者の皆様宛に 手紙が届いていますので、ご紹介したいと思います。
「皆さん、こんにちは。私は今、関西の大学で学んでいます。
震災の体験は、ずっと心の 奥に閉じ込めたままでしたが、今年は、少しずつ辛い思い出にも向き合っていきたいと思 っています。
昨年からニュースなどで避難者へのイジメが報道されるようになりました。
避難先の同級生から『放射能で被ばくして、どうせもうすぐ死ぬんだろ』と、階段から突 き落とされた子もいます。
関西では、大学に通えなくなった女子学生もいました。
大学の先生が授業中にライトを 消して、福島出身の彼女に「放射能で光るかと思った」と言ったのがきっかけだそうで す。
私の周りにも同じような辛い体験をした子は多いですが、みんな口には出しません。
私は、大学の先生が『福島は、子どもも大人も棄てられた』と言うのを聞いてとても落 ち込みました。
また、ある国立大学の教授が「福島で放射能を浴びた娘は、我が家の嫁に は迎えないが、それは実害なので差別ではない」とツイートした日から、私は福島で生ま れたことを隠しています。
私たちは、結婚して子孫を残しても良いのでしょうか?
皆さんは、どう思いますか?
ドキュメンタリー映画『チェルノブイリ・ハート』のような「悲劇」が、福島にも起き ると断言する人もいます。
一方、現地に詳しいフリージャーナリストの方は、その映画の 意図的な情報操作を指摘して真実に反すると書いています。
何の疑いもなく観た人は『怖い』と思うことでしょう。「これは福島の未来だ」・・・ とも。
今、世界の人々は『フクシマ』と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるのでしょう?
汚染されたゴーストタウン?
住民が病気で苦しむ怖い土地?
いつか『ふくしま』という響きが、人々を勇気づけたり、励ましたりできるようになれ たら素敵です。
悲しんでいる人が、『ふくしま』と聞いただけで、力が湧いてくるような、 そんな福島にしたいです。
私の考えは、間違っていますか?」

(3)ふくしま差別の「雨」に打たれて

原発事故から6年が経過しても「福島県人は年間20ミリシーベルトくらい被ばくして いる」と言う人もいます。
福島市で農業に従事する私が「年間労働の放射線被ばく線量は、1ミリシーベルト程度 です」と伝えると、皆さん「え~、そんなに低いわけがない」と驚きます。
でも、これは真実の数字です。
検出限界値が1ベクレル/kg以下の厳密な検査で『不検出』でも、「私は福島県のもの は食べない。仙台産を食べる」と言う人もいます。
ちなみに、福島第一原発から仙台までの直線距離は、約100Km。
福島県喜多方市よりも近いのですが、仙台は「宮城県なので安全」というイメージなの でしょう。
もはや、理屈ではないのです。
福島県だけを、原発事故の悲惨なスケープゴートに貶めていく風潮が、子ども達へのイ ジメや差別の背景にあるのではないでしょうか?
自国の「平和」や家族を守るという名目で、脅かすものを排除してきたのが人類の歴史 であり、災害や戦争の極限状態の中で、常に人間の本質、その真価が問われてきました。
戦後、その修羅から目を逸らすことなく、自らを裁くように描かれた絵が、丸木位里 ・俊夫妻の原爆の図「からす」「米兵捕虜の死」でした。
震災と原発事故後の福島で、私たちは、その「決して忘れてはいけない」歴史の痛みを 自らの魂の中で、深く再体験していたのかもしれません。

(4)「痛み」から「創造」へのプロセスを生きる

さて、臨床心理学者の河合隼雄さんは、生前、「創造の病」について講演をされていま した。
心身の病や事故、戦争や災害の悲嘆のどん底から、人間が再び立ち上がる過程で、 ものすごいクリエイションが起きるのだという臨床報告です。
芸術や文化に留まらず、科 学的な発見や発明の背景にも、同じようなプロセスがあるという貴重なお話でした。
その意味で、今、福島は「創造の島」となりえる「力」を宿していると、私は思います。
花明りの梨畑で、猫のトントンが、今日も問いかけます。
「さがしものは何ですか?」と。
ブランドの高級帽子ですか?
札束で膨らんだ財布ですか?
それとも・・・・・。
私たちは、この島で「ふくしま夢絵本BEES(びいず)」のビジョンを探し当てました。
福島の若者の「物語る力」を信頼し、花を実にするお手伝いをするのがBEES(蜜蜂)の仕 事です。
自分自身を愛し、夢を実現する力を育む、絵本創作のプロセスに期待しています。
今年は、震災で他界された方々の七回忌の年。
鎮魂と決意をこめて、小さな絵本を形にすることができ万感の思いです。

(5)温かいご協力に感謝します

今回、オーストラリア在住のベリーズさんが、日本語よりもファンタスティックな素晴 らしい英訳を届けてくださいました。
ありがとうございました。
ユーモアたっぷりのトントンが、世界中の皆様にも愛されますように。
2作目の絵本も、トントンが主人公です。お楽しみに!
最後になりましたが、松江市の伊藤道場の皆様をはじめ、絵本募金のご支援を賜りまし た全国の梨のお客様に、心より御礼申し上げます。
また、「ふくしま夢絵本BEES」のホームページ作成など、震災後のネット発信を常に 陰で支えてくれた理系の弟にも、心から感謝しています。
皆様、ほんとうに、ありがとうございました。

 2017年8月吉日  大内

ふくしま夢絵本 BEES

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